第56章

「なんでそんな目で見てくるんだ?俺のどこかおかしいか?」

裕樹は口元に微妙な笑みを浮かべた。

そう言いながら、彼は樋口浅子の前まで歩み寄った。

近づいてきたことで、より詳しく観察することができるようになった。

彼の持つ雰囲気やオーラも、より鮮明に感じ取れるようになった。

顔は裕樹の顔だ。

彼から漂う気配も、裕樹そのものだった。

身につけている香水の香りさえ、同じものだった。

間違いなく裕樹だ。

どうやら、先ほど裕樹に違和感を覚えたのは、自分の猜疑心と、遠くて良く見えなかったことが生み出した幻覚に過ぎなかったようだ。

「何でもないわ」樋口浅子は軽く首を振った。

そして、表...

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